改善事例での解説
まずは,以下の改善事例をご覧ください。
IQ=78,ADHD,学習障害を有している中1男子です。学習期間は1年半でした。100ます計算は指を使って計算しており20分かかったのが,色そろばんでの指導後は3分42秒で解くことができました。
これは,一般的には信じられないことだと思います。しかし,色そろばんの指導効果は上記の事例が特別ではありません。色そろばんで学習した方々にみられる効果なのです。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。なぜ,算数障害,計算障害,学習障害(計算),知的障害(計算)を改善できるのでしょうか
それは,理にかなった指導方法だからです。
どのように理にかなっているか,記憶のメカニズムから説明いたします。
なぜ効果的なのか
まず,計算ができるためには,計算に関する知識を記憶しなくてはいけません。そのことを符号化(記名,Encoding)といいます。
これができると,計算に関する知識が長期記憶に保持(貯蔵,Strage)され,計算する時にその情報を検索(想起,Retrieval)して,めでたく計算ができるようになります。
ところで,記憶の符号化と保持をするためには,感覚記憶から入ったデータはすぐに長期記憶とすることはできません。外部刺激を一旦ワーキングメモリという短期記憶を担当するところで保持しなくてはいけません。そして,このワーキングメモリにおいて,何回かリハーサルをすることにより長期記憶の入り口に入ることができます。
つまり,学習においては,ワーキングメモリが重要な役割を果たします。
では,ワーキングメモリを少し詳しく見てみましょう。
ワーキングメモリは,注意の制御を担当する中央実行系の下で,言語的なものを担当する音韻ループと非言語的なもの担当する視空間スケッチパッドに分かれて制御されます
計算学習においては視空間スケッチパッドが重要性を持っており,視空間スケッチパッドは,我々の脳の頭頂間溝と関係が深いことが分かっていいます。
ここから分かることは,計算がうまくできないという困難は,頭頂間溝と深く関わりを持つ数的能力をうまく働かせることにより改善できるのではないかと考えられます
頭頂間溝と深く関わりを持つ数的能力はsubitizing(サビタイジング)と言われる,一目でその量を把握する能力と考えられてます。
その範囲は種々の説はありますが,5までであり,1980~1990年代に行われた多くの実験で示されました。
また,カレン・ウィンという研究者が行った実験では,生後5ヶ月の幼児に簡単な加法減法の能力があることが示されましたた
subitizingは,視覚認知に関する能力であり,具体物ではない単なる数字を見ているときは働かないと考えることもできます。
しかし,私は,subitizingによる具体物の認知と数字との対連合学習により,具体物を見ないで数字を見ているときもsubitizingは,符号化された情報として機能していると考えました。
ここから,計算する時は必ずsubitizingが働いているのでないかと推定することができます。
そこで,「計算するとはsubitizingの組み合わせを変化させることである」との仮説を立て,subitizingの組み合わせの変化を体験できる教材「色そろばん」開発しました
「色そろばん」には上記の構造があるので,すべての数(自然数)をsubitizingの組み合わせで表すことができます。
色そろばんでの具体的展開
それでは,色そろばんではどのようにsubitzingが展開されるか見てみましょう
上図をご覧ください。5と6を例にしています。左側は軸が一つ分で数を表現するの「たての数」,右側は軸が2つ分で数を表現する「よこの数」です,どちらも同じ5と6を表現しています。
また,可動目印のおかげて,数えなくてもsubitizingにより数を認知できるのも理解できると思います。
すなわち,視空間スケッチパッドを機能させた数認知を促すことが可能になるのです。
ここで大事なことは,よこの数での数の認知は足し算で行っているのではなく,縦に並んでいた数が単に横になっているのに過ぎないということです。わざわざ足し算という思考をする必要はありません
この仕組みを,各位に適用すると,346を以下のように表現することができます
subitizingの組み合わせにより346が認知されていることをご確認ください。
次に十進法の本質の一つである,「10になったらそれを1と認識する」ということを色そろばんでは「両替」という作業に帰着させ学習者の理解を促していることを説明します。
以下の動画は学習用動画における両替の説明です。
両替操作
両替の操作から,十進法の繰り上がりを学習します。
この両替操作は十進法の理解を大きく深めます。
小学校1年生の教科書では,10,11,12,13は10個のブロックの塊を使って図のように指導しています。
これは,色そろばんの世界から見ると両替の前段階で止まっていることになります。
この段階で,10という数を認知することは,ブロック10個分の面積が,1個の10倍である視覚的な感覚で認知できるため,量の感覚という視点からは意味があります。
「ジュウ」と発語したとき,この面積比のイメージと対応できます。しかし,足し算,引き算等の計算の対象を考えた場合,この10という塊は大きすぎるのです。
我々が行っている計算手続きを振り返りましょう。70+20を例にすると,答えは90となります。この90を出すとき,最初に,7と2に意識が集中し9がでます。背後にはsubitizingが働いています。その後に,ちょっと遅れて90というイメージがわき出ると思います。
先生が,10+10を説明するために,ブロック10個の塊と,ブロック10個の塊を足すとき,説明のどこかの場面で必ず「10個の塊1つ」という説明があるはずです。
この「1つ」という表現から,先生がsubitizingで1を認知していることが分かります。説明する先生自身もsubitizingで1を認知しているのです。
先生のその認知は,図には表現されません。ブロックは大きい10個の塊のままです。学習者には先生の「subitizingが働いて1と見ている」という認知は伝わりにくいのです。
だから,両替して赤玉10と黄玉1個を交換して,新たに視覚認知した黄玉1個から,色は異なるけど同じ1個であるという認知を通して,subitizingを学習者に促す必要があるのです
両替操作はこの理解を深めるのです。
subitizingの組み合わせと両替操作により簡単に繰り上がり繰り下がりができる
「たての数」,「よこの数」を用いたsubitizingの組み合わせと両替操作により繰り上がりの計算も楽に計算ができます。以下の動画をご覧ください。
繰り上がりのあるたし算
これらの色そろばんの指導システムは振り返ってみると,言語的な理解を促すのではなく,数感覚を用いた理解を促していることが理解できます。
すなわち,ワーキングメモリの中における視空間スケッチパッドを適切に使うことを促しているのです。
かけ算九九もsubitizingの視点から視空間スケッチパッドを機能させる
上述のように,subitizingに基礎を置いた,視空間スケッチパッドを機能させる指導方法を取り入れることにより,計算障害,知的障害を含む計算学習に困難を示す児童生徒への指導は非常に効果的でした。もちろん計算が得意な児童生徒に対しても効果的です。
この考え方はかけ算九九の学習も非常に有効です。すなわち,言語的活動になりがちなかけ算九九の学習を数感覚を養う学習に転化できるのです。
九九の躓きを考えるとき,一般的には音韻の問題と考えがちです。他の九九との混同などはよく見られる光景です。その混同の原因は主に音韻の混同にあると考えられ,指導も音韻からのアプローチが主になります。
しかし,掛け算九九の言語的な理解は,そもそも,それが目的ではなく数感覚を理解するための手段です。つまり,言語的な表現ができても,数感覚に基づかない理解であれば何の意味もありません。九九はできるけど引き算はできない児童生徒少なくありません。目的と手段が混同しているのです。
色そろばんによるかけ算九九の学習は,実物を用いて九九を体験できるため,自然に数感覚に基づいた理解ができるようになります。
結果として,複数桁の割り算における商の推定がスムースにできるようになります。
どのように学習するのか6の段を例に見てみましょう
足し算から,かけ算を作っていきます。その具体的な変化が実物を通して理解できます。このことは,抽象的な思考が苦手な,具体的操作期に該当する学習者にとっては非常に有効な方法です。
6の段の掛け算を動画(実際の学習用動画)で見てみましょう
半分の数を色そろばんで学習することが数感覚を養う
半分の数とは,任意の数÷2を求めることです。一般には,4の半分は2,10の半分は5と計算しなくとも推定できますが,計算が苦手な学習者又は計算学習が初期の段階の学習者等の場合,12の半分,18の半分など推定に困難を示します。
割り算を習っていなくてもある自然数の半分はどのくらいになるだろうかという思考は非常に重要です。
色そろばんで学習すると,この半分の数も簡単に学習できます。
色そろばんの構造が半分の数を簡単に学習させてくれるからです。
まずは各位が偶数の場合の半分の数はどのようにするか以下の動画をご連下さい。
次にある位に奇数がある場合の半分の数は両替を適用することにより簡単に計算することができます。以下の動画をご覧ください。
次に奇数が連続する場合の半分の数も,両替を2回適用することにより簡単に計算することができます。以下の動画をご覧ください。
一般的に532の半分は筆算を習っていないとできませんが,色そろばんでは筆算を使わずに簡単にできます。これは一般的なそろばんでは学習できません。しかし,数感覚を養うには大事な学習です
この半分の数を学習した後,割り算の学習に入ることができます。
色そろばんでは,割り算を具体物の操作として学習できる
保護者の方の感想
実際に色そろばんで学習した保護者の方の感想を紹介いたします。
小学6年(ADHD,算数障害) 女児のお母さま
娘は現在小学6年生ですが,4年生に進級する頃に幸運にも色そろばんに出会い2年程学びました。計算が苦手で簡単な計算も指を使っていましたし,かけ算も6の段以降はつまづいていました。色そろばんを始めた当初は,使い方が一般的なそろばんとは異なり戸惑いもありましたが,徐々に数感覚が身に付き,色そろばん塾を卒業する頃には掛け算はもちろん三桁の計算なら暗算も出来るようになりました。 短期間の劇的な成長に驚きました。また,色そろばんを続ける事により集中力も身に付きました。 始めた当初は,計算を解く事が出来ずイライラして泣いてしまうことが多々あったのですが,数感覚を養い問題が解けるようになると,気持ちもコントロールする事が出来るようになり集中して取り組めるようになりました。 娘にとって色そろばんで学んだことは,前に進むための大きな一歩となり大変嬉しく思っています。 感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。
30代 女性(算数障害)
私は長いこと算数障害に悩んでました。 どうして自分は繰り上がりのある足し算や引き算ができないのだろうとずっと悩み続けていました。 小中学生の頃のテストは,他の科目の成績はそこそこよかったものの,数学だけは全滅でした。 ある時,インターネットで検索中に算数障害という言葉を知り,自分はそれじゃないかと疑い始めました。 「色そろばん」を同じくネットで知りさっそく私も学習を始める決意ができました。 色そろばんの学習で嬉しかったこと・良かったことは,何よりも,いままでできなかったことができるようになったことです。 努力すれば自分でもできるという自信がつきました。又,同じ算数障害に悩んでいる方々にも,色そろばんをお勧めしたいですね。 LINE学習でよかったことは,何よりもスキマ時間にできることです。また,分からないことや困ったことなどを気軽に質問できるからです。改めて学習を始めてよかったと思ってます。
小学1年 男児のお母さま
色そろばんをやり始め、毎日コツコツ取り組む学習の習慣がつきました。 定期的に学習状況を動画で確認しその都度気をつけるポイントを指導してもらえるので、指導に沿った計算方法が定着しました。 子どもも色そろばんで自信がついたようで、嬉しく思います。 高校1年 男子(知的障害)のお母さま 色そろばんを日々取り組むことで数に対して苦手意識がなくなりました。集中力も身についたので計算が早くできるようになり,本人の自信にもつながってよかったと思います。 (【補足】 2年間の学習で,3桁の足し算・引き算及び2位数×1位数の掛け算を,色そろばんなしの暗算で計算できるようになり,その後,小数・分数の学習に進むことができた。)
小学2年女児 のお母さま
娘は算数が苦手で「数」というものを教えることが難しく何か良いものがないか?と探してたときに「色そろばん」と出会いました。 私は子供の時に「そろばん」が難しく理解できないまま大人になったのですが、「色そろばん」は優しく簡単に出来そうに感じました。 実際やってみるとすごく簡単に操作、理解ができました。 独学から娘にスタートさせてみましたが、やはり教えるにあたりつまずくことも多くLINE塾を受講することしました。 進め方。わからないこと。気になること。考えかた。どういうふうに子供と向き合っていくべきか。些細なことでもすぐに返答をいただけるのは助かっていますし、活力になります。 LINE塾を受講して8ヶ月ほどたちましたが、娘も「数」に対して苦手意識が減り少しずつ計算力も上がってきています。 娘と一緒にやっていると私も考えなくても「数が見える」(サビタイジング)感覚があります。不思議な感覚で「これか!」と算数が楽しくなります。 これが娘にも身についてくれると嬉しいです。 娘は毎日、学校へ行く前に頑張って取り組んでいます。色そろばんを操作して答えが出せて、「こうなるのか!」と実感できるのが楽しいと言っています。目、手、頭を使う色そろばんは子供に限らず大人の認知能力の向上にも役立っていると思います。日々の積み重ねが大切なので無理のない範囲で続けていきたいと思います。 数ヶ月後、数年後にどれほど計算力が伸びているのか楽しみです。