色そろばんの理論(詳細は指導書をご覧ください)
色そろばん理論の基本的な背景は1980年から1990年にかけての幼児の数認知に関する実験です。色そろばん理論は,これらの実験結果を応用してます。なぜ色そろばんによる指導は効果的なのか,を考える際に参考にしてください。
数える能力には,subitizing(サビタイジング:一目で把握する能力),counting(数え上げ),estimation(見積もり)がある。このうち,subitizing(サビタイジング)は最も基本的な能力であり,1980年から1990年代に行われた実験から,人が生得的に持っていることが示された。また,subitizingは動物にも備わっていることがわかっている。また,Wynn(1992)の実験では,生後5ヶ月の幼児に簡単な加法減法の能力があることが示された。
一般的なsubitizing(サビタイジング)の範囲は,5を超えるとエラーが増えるため,1から4,5程度であるといわれている。古代文明の数表象では,主に「5」をまとまりとして表現している場合が多いので,本稿では,その範囲は5と考える。countingやestimationは自己の意識で止めることは自由にできるがsubitizing(サビタイジング)は,countingやestimationと異なり,数えようとするとき,その機能を自分の意識で止めることはできない。subitizingは自分の危機を守るために必要であり,野生の動物にとっては,襲ってくる敵が1頭であるか,2頭であるか,3頭であるかを瞬時に判断することは生死に関わるからであろう。
人は生まれてから,subitizing(サビタイジング)を無意識に行っている。意識的な学習の背後にこの無意識のsubitizingがあることを考えるとき,計算の基本的な学習においては,subitizingは大きな影響を及ぼす。
Wynn(1992)の実験では幼児が1+1=2を理解していることが示された。幼児は言語能力を考えると「+,=」の演算を理解しているとは言い難く,この実験は,subitizingでの「2」の認知は,その「2」の中の「1」の認知と「1」の認知をまとめて認知することと等しいこと理解していると推定できる。この理解は集合に関する理解に近く,subitizing(サビタイジング)可能な数は,それを2つに分割した数の組み合わせで認知したものと等しいと理解していることを示している。
2を例にすれば,2の分割は1と1の組み合わせになる。組み合わせを[1,1]と表現すると,subitizing(サビタイジング)による2の認知は,subitizingによる[1,1]
の認知と同じことであり,Wynn(1992)の実験は,2=[1,1] の理解を示しているといえるのではないだろうか。また,この理解はsubitizingの範囲(幼児は3,大人は5)に制限され,その制限の中で理解していると考えることができる。
いま,subitizing(サビタイジング)できる数の組み合わせによる認知をsubitizingを基礎として認知すると表現し,それによって認知された数をsubitizingを基礎として認知する数と表現する。また,簡単のためにaがsubsidizing可能な数とするとき,[0,a]もsubitizingを基礎として認知する数に含める。すなわち[0,a]=aである。このとき,subitizingの範囲を5までとするととき,2から5までの数については,[0,2]=[1,1],[0,3]=[1,2],[0,4]
=[1,3]=[2,2],[0,5]=[2,3]=[1,4]と10個のsubitizingを基礎として認知する数で表現できる。
そして,これらがそれぞれ等しいことを学習することにより,例えば3については,「1+2=3,2+1=3,3-2=1,3-1=2」という数的事実を定着させることができる。つまり,1から5までのsubitizing(サビタイジング)での認知を通した学習(体験)により,これらに関する数的事実を人間が本来持っているsubsidizingという認知能力をもって理解することができる。これらの数的事実を作るためのsubitizingを基礎とした数の組み合わせは以下の通りである
次に,6から10までの数を考える。
6から10までの数は直接subiitizing(サビタイジング)できないが,6を例にすると,[1,5]とsubitizingを基礎として認知することができる。
同様に,7,8,9,10も[2,5],[3,5],[4,5],[5,5]とsubitizingを基礎として認知できる。このように,6,7,8,9,10を[1,5],[2,5],[3,5],[4,5],[5,5]と認知することは,1,2,3,4,5,と対応させており非常に捉えやすい。subitizingの世界からすれば,これらは6,7,8,9,10の定義である。
また,この認知以外にも6=[2,4]=[3,3],7=[3,4],8=[4,4]とsubitizing(サビタイジング)を基礎として認知できる。このように考えると,1から10までの数はsubitizingできる数a,bを用いてsubitizingを基礎として認知する数[a,b]で表すことができる。
次に,a又はbがsubsidizing(サビタイジング)できる数を超えている場合を考える。
例えば,6はsubsidizingできない数であるので,7を意味する[1,6]はこのままではsubitizingを基礎として認知できない。
しかし,6は[1,5]=[2,3]=[3,3]と認知できるので,これを入れ込むと7は[1,[1,5]]=[1,[2,4]]=[1,[3,3]]とsubitizing(サビタイジング)を基礎として認知できる。
この認知ができるためには, [2,4]及び[3,3]は,6の定義である[1,5]と等しいという数的事実が定着している必要がある。この定着があるから[1,[1,5]]=[1,[2,4]]=[1,[3,3]]
は[2,5]と等しいことを簡単に推定できる。
このように考えると6から10までにおいて,それぞれ等しくなるsubitizing(サビタイジング)を基礎として認知する数を学習することにより,例えば「5+3=8,3+5=8,8-5=3,8-3=5」等の数的事実を理解定着させることができる。
6から10までに関しての数的事実を作るために必要な理解・定着すべきsubitizing(サビタイジング)を基礎とした数の組み合わせは以下の通りである(下図参照)
ところで,数をsubitizing(サビタイジング)可能な数で認知するとき,認知した数はそれ自体が1つのまとまりであり,そのまとまりを単位としてsubitizingできる。
例えば,10個の小石が地面に並んでいるときsubitizing(サビタイジング)で10個と認知する。次に,この10個をすべて囲むように円を描けば,この10個は纏まりとしてとらえることができ,それ自体がsubitizingの対象となる1個である。そして,新たな単位となる1個に対して1から10までsubitizing可能な数を作ることができる。これ繰り返せば,十進法をsubitizingの視点から見ることができる。
このように十進法をsubitizing(サビタイジング)から考察すると算数・数学の中での十進法ではなく,人間が本来原始的に持っている能力から見ることができる。subitizingは,数えようとするときに無意識で働く能力である。このsubitizngの視点で十進法の計算学習を行うことができれば,非常に容易に学習できるのではないかと考えた。
具体的な学習を考えるとき,10の纏まりも含めて,如何にsubitizing(サビタイジング)の組み合わせで数を認知させるかがポイントとなる。この認知を学習する教材として「色そろばん」を考案した
色そろばんの各位には色が1対1で対応しており,位取りは色を基準に判断することとなる。また,各位に対し2つの軸が対応し,1つの軸には十個の珠がある。これにより,例えば[2,3]を「縦」だけではなく,2つの軸を使って「横」で表現することも可能になる。また,各軸には10個の珠を5珠×2に分割する透明な可動目印を付けた。これにより,6,7,8,9,10もsubitizingを基礎として認知できる。すなわち,色そろばんでは,与えられた数の十進法上の各位において,1~9までの数Xを,subitizingを基礎として認知可能な数
で表すことができる。
次に,色そろばんでの加法減法の手続きを説明する。
十進法で表記された自然数aの第nの位の値を と表す。
色そろばんでは毎に計算する。足し算,ひき算は二項演算なので,各位におけるsubitizingを基礎として認知可能な数は2つ必要である。
この2つの数を色そろばん上で計算しやすく表現するために p ,q ,r ,s (0≦p+r≦10 , 0≦q+s≦10)を行列的に配置しこれを と表す。
は色そろばん上の第nの位における [p ,q] ,[r ,s] ,[p ,r] ,[q ,s]の物理的な相対的配置を表している。
これらは,色そろばんの構造からsubitizing(サビタイジング)を基礎として認知可能な数となる。
=p+q+r+sとする。
色そろばんにおける加法a+bの第nの位の値である導き方は以下の通りである。
(1) nの位での繰り上がりなし,n/10の位からの繰り上がりなし
(2) nの位での繰り上がりなし,n/10の位からの繰り上がりあり。
ⅰ) の場合
a) n/10の位からの繰り上がりを後で処理する場合
b) n/10の位からの繰り上がりを先に処理する場合
ⅱ) の場合
a) n/10の位からの繰り上がりを後で処理する場合
b) n/10の位からの繰り上がりを先に処理する場合
(3) nの位での繰り上がりあり,n/10の位からの繰り上がりなし
(4) nの位での繰り上がりあり,n/10の位からの繰り上がりあり。
ⅰ) n/10の位からの繰り上がりを後で処理する場合。
ⅱ) n/10の位からの繰り上がりを先に処理する場合
減法a-bの第nの位の値の導き方は以下の通りである。
(1) 10nの位からの繰り下がりなし,nの位からの繰り下がりなし。
(2) 10nの位からの繰り下がりなし,nの位からの繰り下がりあり。
ⅰ)nの位からの繰り下がりを先に処理する場合
ⅱ)nの位からの繰り下がりを後で処理する場合
(3) 10nの位からの繰り下がりあり,nの位からの繰り下がりなし。
(4) 10nの位繰り下がりあり,nの位からの繰り下がりあり。
ⅰ)nの位からの繰り下がりを先に処理する場合
ⅱ)nの位からの繰り下がりを後で処理する場合
18+3 の場合は下図のようになります。〔 〕の中は すべて subutizing(サビタイジング)の組み合わせになっています。色そろばんの基本的な考え方は「基本的な計算はsubitizing(サビタイジング)の組み合わせを変化させることである」ということがわかると思います。